山形大学医学部看護学科を卒業後、同大学大学院医学系研究科看護学専攻修士課程を修了。宮城県立こども病院で看護師として勤務した後、山形大学医学部看護学科に助教として着任。母校で教育に携わりながら、2014年に博士(看護学)取得、専門看護師(小児看護)認定。2022年より現職。
私は、看護学生のときに実習で受け持たせていただいた小児科の患者さんとの出会いをきっかけに、小児看護を専門にしたいと考えるようになりました。当時は、小児科病棟で入院中の子どもたちへの遊びのボランティアなどを通して、どんどん小児看護の魅力に惹かれていったように思います。私が学生のころは、看護における専門性の意識が今ほど浸透しておらず、スペシャリストは医師で、看護はジェネラリストといった印象が強かったと思うのですが、在籍している大学の大学院に看護のスペシャリストである専門看護師(小児看護)の養成コースがあったことも惹かれた理由の一つでした。そこで、大学を卒業後はそのまま大学院へ進学し、研究に取り組みながら専門看護師のための実習として子どもの心のケアを学びました。
小児専門病院で臨床を積んだ後、母校から声をかけていただき看護教育に携わるようになりました。教育にあたる責任の重さや難しさを感じる一方で、学生の皆さんの成長をとても嬉しく感じられています。実践の現場を離れて教育に籍を置いたときの唯一の心残りは、直接、患者さんから学ぶ機会が薄れてしまったように感じたことだったのですが、山形大学医学部附属病院での半年間の人事交流を通して、小児科病棟・小児科外来で実践する機会に恵まれました。さらにこれをきっかけとして、その後も教育に籍を置きながら実践を継続することにつながり、1日/週、臨床で実践しながら教育にあたることができました。ここ2年ほどは、学部学生が受け持つ事例に加えて、臨床の専門看護師からの事例相談やその対応、大学院教育における教育・実習での行き来が中心となっていますが、日々進化する医療において、私自身も最新の医療技術に対応した実践を理解することで、実践力の向上につながる教育内容に活かしていけると考えています。私が最も大切にしているのは、事例です。事例から学んだことは事実だからです。どんな患者さんとの出会いも必ず自分を成長させてくれます。ですから、学生の皆さんにも出会う患者さん一人ひとりと誠実に向き合いながら、成長してもらいたいと思っています。
大学院の修士課程では、プレパレーションをテーマに研究をしました。「プレパレーション」という言葉、小児看護の中では業界用語として浸透していますが、もしかしたら初めて耳にするという方もいるかもしれません。このプレパレーション、小児看護の中では心理的準備とも訳され、入院や手術、処置などを控えた子どもに対して、本やビデオ、また実際の医療器具などを使用して子どもの認知能力や理解力に合わせた説明を行うことをいいます。わかりやすい言葉や道具を使って説明を受けることで、子どもなりに理解ができるようになり、頑張ろうと思いながら検査に臨めるようになるため、その支援を意味しています。子どもの権利を遵守するケアに興味を持った私は、修士課程で採血を受ける子どもに対するプレパレーションについて研究し、プレパレーションが痛みの軽減にも効果があることを明らかにしました。教育に携わりながら研究をしようと考えたとき、実践に貢献できる研究として、やはりテーマに選んだのはプレパレーションでした。痛みを伴う検査や処置を受ける子どもに対する支援や、子どもに適した説明内容などについて、模索しながら研究に取り組む日々です。私は、実践に貢献できる研究を大事にしていますが、それと同時に教育に還元することも大事に考えています。テーマにしているプレパレーションは、子どもの権利を遵守するうえでの方法論のひとつですので、講義の中では、私自身の研究の成果を紹介しながらプレパレーションの概念や理論のほか、子どもの基本的人権の尊重などについて理解を深めてもらっています。研究からの知見や成果を授業に反映しながら教育を行うこうとで、学生の皆さんにも根拠に基づいた理解につながり、また研究に対する興味・関心を持ってもらえるのではないかと考えています。正直、修士課程でこの研究に取り組んだとき、将来これほど自分にとっての生涯テーマになるとは思ってもみませんでした。疑問に思うこと、興味を持つきっかけはどんなことでもいいと思います。もっと何とかしてあげられないかな、何かおもしろそうだな、いつかどこかでそんな感覚に出会えたら、それは大きなチャンスになります。学生の皆さんにもそんな小さなきっかけを大切にしてもらいたいです。
看護は、実践の科学です。また、看護の発展に研究は不可欠です。教育に携わりながら、これからも教育と実践と研究の架け橋を目指していきたいと考えています。