202405

困った時に助けてくれる同志とともに!シミュレーション教育の教材を作成している場面です。ICTを活用した教育、シミュレーション教育を通したつながりは、看護師、教育者、ひとりの人としての私の世界を大きく変えてくれました。一番右側が橋本先生です。

学校法人越原学園 名古屋女子大学 健康科学部看護学科
橋本 侑美

名古屋大学大学院医学系研究科博士前期課程修了(看護学)。大学病院、医療型障害児福祉施設で勤務。2022年より現職。日本循環器学会AHA BLSヘルスケアプロバイダーインストラクター、日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法(NCPR)インストラクター。研究テーマは『小学生を対象とした心肺蘇生教育』、『出生後新生児の安定化に向けた看護職の臨床判断プロセスの解明と実践プログラムの開発』。『ICTを活用した学習設計の効果検討』。現在、京都橘大学大学院看護学研究科博士後期課程に在籍中。

出会いとつながりが育ててくれた受援力

 小児看護学では、あらゆる健康レベルにある子どもと家族が看護の対象になります。病気や障害があっても「その子らしい」成長・発達を支援する、「家族らしい」生活を支援するために、子どもと家族の状況に応じた看護とは何かを探求することを目指しています。
 私は、学生時代に経験した様々なボランティア活動がきっかけで、小児看護を専門にしたいと思うようになりました。その中でも「Make-A-Wish(メイク・ア・ウィッシュ)」という難病と闘う子どもたちの夢をかなえるボランティア団体での活動を通して、人とのつながりの中で、受援力(助けを求められたり、助けを受けたりする心構えやスキル)を身につけ、夢に向かって挑戦することの大切さを教えてもらうことができました。
 Make-A-Wishのボランティア活動に参加した当時、まだ学生だった私は、「Make-A-Wishで夢をかなえる=お子さんにとっての最後の夢かもしれない」という、どこかネガティブな思いがありました。そのような私の先入観を180度変えてくれたのは、「夢の実現はゴールではなく、次の夢につなげるステップ」ということを教えてくれたお子さんとご家族の姿でした。そして、そこには、自らの夢を掴もうとするお子さんとご家族を支えたい気持ちでつながる、たくさんのボランティアの姿がありました。この経験は私にとって、お子さんの「やってみたい」を支える看護師になりたい、「できた」を一緒に喜ぶことができる看護師になりたいという、目指すべき看護師像を形成する原点となりました。
 大学教員になって、臨床とは大きく異なる環境に戸惑い、教育・研究の中で生じた自身の課題が見えなくなっていた私を救ってくれたのも、人とのつながりでした。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴って大学の講義や実習方法が大きく変化した時、「ICTを活用した授業設計」、「効果的なシミュレーション教育」への挑戦が、今の私を大きく成長させてくれました。この時期、各学会が開催していた様々な勉強会に参加し、日本看護シミュレーションラーニング学会のJaNSSL指導者養成コースを受講する中で、全国の臨床看護師、看護教員と出会い、つながりを持つことができました。教育者としても研究者としても駆け出しで、悩むこと、迷うことばかりだった私にとって、困りごとを素直に相談できる、助けてもらいながら前進することができるつながりは、夢に向かって挑戦する力の原動力になっています。
 現代の子どもたちは、核家族化や地域社会のつながりの希薄化によって困ったときに助け合う経験が少なく、その結果、自分が困った時にどのように周りに助けを求めていいのか分からないという状況に陥りやすくなっています。人に助けを求めると批判されるのではないか、ダメな人間だと思われてしまうのではないか、と考えしまう子どもたちも少なくありません。しかし、人はみんな違う存在で、得意なこと、苦手なことも異なります。個人の凸凹を強調するのではなく、お互いの強みを活かして、凸凹の歪みが小さくなる関係性の構築を支援することも、「その子らしさ」を支える大切な看護だと感じています。『「つらいのに頼れない」が消える本-受援力を身につける』の著者である吉田穂波先生1)は、「一人でできることと他人に頼ることを見極め、お互いに助け合い、“全体にとって最もいい方法を選ぶ”」ことが真の自立であると述べています。『支えること』と『支えられること』は表裏一体の関係であること、受援力のスキルは大切な強みであり、人とつながる大切なコミュニケーション力であることを看護の中で伝えていけるように、私自身が日々、研鑽していきたいと思います。

  • 1)「つらいのに頼れない」が消える本-受援力を身につける,吉田穂波,あさ出版,2018,東京.

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