新潟大学医学部保健学科を卒業後、北里大学病院で看護師として勤務。その後、聖路加看護大学(現、聖路加国際大学)看護学研究科修士課程、順天堂大学医療看護学研究科博士後期課程修了。2013年より現職。
私が大学教育に携わるようになり、11年が経過しました。その間、ありがたいことに、慢性疾患児の自立支援、幼児の受療行動の意思決定支援、小児病棟での玩具を介した感染予防方法の検討、実習や演習を中心とした教育方法の検討など、様々なテーマでの研究を行う機会を与えていただきました。今回は、その中でも中心的なテーマである慢性疾患児のレジリエンスの研究について紹介させていただきます。
慢性疾患児は医療技術の進歩等によりその生命予後は着実に改善してきています。その一方で、慢性疾病を抱える子どもたちは増加の一途をたどり、小児慢性特定疾病受給者数は、2019年には762疾病まで対象を拡大し、実際の給付者は2020年の時点で12万人にものぼっています。慢性疾患児はその病気体験の中で様々な逆境に直面します。これらの経験は、病気体験のトラウマ化、人間関係の喪失、就職困難、学力・進学率低下等の社会的役割の制限、子どもの世界観の変化といった悪影響をもたらす可能性を内在しています。このような中で、逆境に対する適応のプロセスである「レジリエンス」を高めることが重要だと考えました。そこで、臨床時代にケアにあたらせて頂くことの多かった小児がん経験者を対象としたインタビュー調査を行い、その病気体験を質的に分析しました1)。結果、小児がん患児の病気体験におけるレジリエンスを向上させるには、自分自身に何が起こっていたのかを知ること、居場所をつくることの必要性が示唆されました。
次に、慢性疾患児の居場所に注目しました。慢性疾患児にとって、近隣、学校、家族、友人といったマイクロシステムにおけるソーシャルサポートを良好に保つことがレジリエンスの向上につながることは多くの研究で立証されています2)。そこで、質問紙に回答可能であると判断した学童期の慢性疾患児に焦点をあて、レジリエンスと病気が生活に与える影響、ソーシャルサポートの関係を調査しました3)。その結果、通院や医療的ケアの有無等の疾病状況というよりも、友人・知人の助けがレジリエンス全般に影響しており、子どもの主な生活の場である学校生活上のサポートを改善することで、より慢性疾患児のレジリエンスの向上につながると考えました。
現在は、学童期の慢性疾患児の学校生活のサポートの要である学校教諭との連携に焦点をあてて研究を進めています。学校教諭には、クラスメイトへの病気の状態や配慮すべき事項等の説明、役割の付与や良いところを伸ばす教育など、慢性疾患児とクラスメイトが共に行動できるような働きかけが求められています。しかし、治療と教育のそれぞれの立場での主張の対立や医療者との情報交換の不足など、適切な情報共有ができていない状況も報告されています。そこで、医療者と学校の情報共有の円滑化を目指し、情報共有ツールの開発を行なっています。
まだまだ研究者としても教育者としても未熟ですが、1つ1つの経験を大切にし、学んでいきたいと思っています。