大学院生の皆さんと。左端の方が田渕先生です。
大阪大学医学部保健学科卒業後、高槻市役所入職。17年間の行政保健師勤務を経て、2020年滋賀医科大学医学部看護学科公衆衛生看護学講座・助教(現職)。2009年、大阪大学大学院医科学修士課程(MPHプログラム)を修了。京都大学大学院人間健康科学系専攻博士後期課程に在籍中。
11月に開催された第82回日本公衆衛生学会総会で行政保健師時代の後輩に遭遇した時のことです。
「行政保健師の仕事って、取り組んできたことを研究的視点で振り返る機会がなかなかないんです。」
発表を終えたばかりなのに、抱えていたものを吐露する彼女の言葉を、数年前の自分自身と重ね合わせて聞いていました。
私は、大学卒業後すぐに行政保健師になり約15年間地域住民の健康に携わってきました。
その間の仕事上のターニングポイントは2回。一度目は就職7年目に進んだ大学院。公衆衛生での行政保健師の在り方を自分なりに悩み、就労を継続しながらMPH(公衆衛生学修士)を取得しました。在学中は、医師、看護師、弁護士など多くの他職種の方と出会い、保健師の責務を再認識できた貴重な2年間でした。
二度目のターニングポイントは、就職17年目で目指した教育研究職。行政現場では管理的業務も任されていましたが、公衆衛生へのかかわり方を転換したい思いで飛び込みました。
転職早々に、思いがけずコロナ禍でのオンライン代替実習に悪戦苦闘を余儀なくされ、IT社会の洗礼を受けつつも、大学での保健師課程での学生教育に携わるようになりはや3年が過ぎました。昨年度からは産業保健での実習も開始し、新卒での産業保健師も輩出しております。
研究においては、自分自身が博士課程に在籍中であり研鑽の日々です。私の研究関心は、保健活動の貢献度の定量的評価です。教育研究者として歩み始めた頃に、システム構造から理解を深めるヘルスサービスリサーチ1)という研究領域に出会いワクワクした感覚を今でも覚えています。現在は、介護DBを用いて、保健医療介護現場の課題に即したビッグデータ研究にも携わり始めています。
研究は、公衆衛生看護のクリニカルクエスチョンを解決するための一手段ですが、現場では目前のことに追われ、新しい理論や概念を深めることを敬遠しがちです。現場と研究との橋渡しが、長年の行政経験を経た私の役割だと、冒頭述べた後輩との再会で改めて気づかされました。
そうそう、私の教育研究職への転機のきっかけは、大学時代のゼミの指導教官です。
卒後の進路に向けた動機は様々です。ですが、学生生活には、その後の人生の選択のきっかけとなる出会いがきっと含まれています。私が様々な先輩方の活躍に感化され、道を歩んできたように、私自身が学生の進路の選択肢の一場面となるかかわりをこれからも心がけていきたいと思います。