202306

石川県立看護大学 看護学部 母性・小児看護学講座
千原 裕香

金沢大学医学部保健学科を卒業後、金沢大学附属病院で看護師として勤務。その後、石川県立看護大学大学院看護学研究科博士後期課程修了(博士:看護学)、2014年より現職。

子どもたちが健やかに成長できる社会を目指して

 私が「子ども」という存在に強烈に惹かれ、子どもについてもっと知りたい・関わりたいと思ったきっかけの一つは、学生の時に受講した小児看護学概論でした。講義の中で「発達」に関するさまざまな理論を知り、「子どもの発達ってなんて面白いのだろう!」ととてもワクワクしたことを今でも覚えています。特に子どもの認知的発達のプロセスが興味深く、そんな時に「育児の認識学」(海保静子著,現代社)という本に出会いました。子どもの認識を「像(絵)」で図示して説明してくれている本で、子どもがどのように世界を捉え、それに対してどのように反応しているのかとても分かりやすく記述されており、大人とは異なる子どもの世界にますます惹かれていきました。
 子どもは様々な経験を通して成長していく、まさに白いキャンバスのような存在だと感じてます。周囲の大人の関わり方ひとつで子どもはどんな色にもなり得ます。子どもの発達を理解し子どもの認識を理解して関わると、子どもたちが「自分のこと分かってもらえた!」というような満足そうな笑顔を見せてくれ、こちらもとてもうれしくなります。そしてそのようなやりとりの積み重ねが子どもの可能性を後押しするのだと考えています。小児病棟で看護師として働いていましたが、子どもの成長発達を支える「子育て」にもっと携わりたいという思いから、大学院に進学し、大学教員として現在、子育て支援に関する研究に取り組んでいます。
 「子育て」を取り巻く社会状況をみると、児童虐待相談対応件数は年々増加の一途をたどり、子ども虐待が社会全体で取り組むべき重要な課題となっています。この背景には、親になる前の「育児経験」や「子どもと関わった経験」が減少し、親になった時に育児不安に陥りやすい状況にあることが指摘されています。そこで私は、親になる前から始める子ども虐待防止支援プログラムの開発を行っています。このプログラムは「親子交流を通して親になることを考えるプログラム」(通称:親子交流授業プログラム)といい、高校家庭科の授業の中で実施できるように考案されたもので、高校生が乳幼児の親子と交流し自分が親になることを考え、親世代になることに対する意識を育むことをねらいとしています。このプログラムの特徴は、プログラム運営を担当する行政機関(いしかわ結婚・子育て支援財団),プログラム実施を担当する教育機関(高校家庭科教諭),高校生との交流に協力してくれる親子が安心して参加できるようにプログラム実施をサポートする福祉機関(NPO法人などの子育て支援団体),プログラムの評価を担当する研究機関(石川県立看護大学)の4機関で実施する体制を整えている点です。2014年にスタートし、2019年度は19校、計2,800人の高校生がプログラムに参加し、1,077人の乳幼児親子に協力していただきました。2020年〜2022年度はCOVID-19の感染症拡大防止のため実施できませんでしたが、今年度からは再開する予定で準備を進めています。様々な分野の人たちと協力しながら、子どもたちが健やかに成長できる社会の実現に少しでも寄与できるように、日々研鑽を重ねていきたいと思います。

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