前列右から3番目の方が杉山先生です
東京医科歯科大学卒業後、虎の門病院で看護師として勤務。その後、東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科先端侵襲緩和ケア看護学博士前期課程、急性・重症患者看護専門看護師コース、博士後期課程を修了(看護学博士)。聖路加看護大学(成人看護学)助教、国立看護大学校(講師)、2018年度文部科学省高等教育局医学教育課技術参与併任を経て現職。
真夏のマスクや頻回のアルコール手指消毒など、新型コロナウイルス感染症は私たちの生活習慣を一変させました。隔離された後に重症化し、場合によっては死を迎えるかもしれない恐怖は、それを食い止める医療従事者への敬意を超えて、感染者と接触することへの差別や偏見となり、医療従事者を苦しめているというニュースもありました。その中で将来の看護を担う学生の臨床実習をどうするか、周術期看護を担当する私も、相当に動揺しました。
もともと、海外では医療シミュレーション
1)が進んでいましたが、プログラムを統一して実習の4割をシミュレーションに置き換えても新人看護師の看護実践の一部に差がないことが証明2)されてからより加速していました。ハワイのSimTikiや日本で開催されたWISERのiSIM-J等の研修を受け、学内のニーズ調査やプログラム開発
3)4)に取り組んでいましたが、新型コロナウイルス感染症による実習への影響で、こんなに急に取り入れる必要が生じるとは思っていませんでした。
本学は、政策医療を担う8つのナショナルセンター病院でリーダーシップを担う役割を育成するミッションを遂行するため、各病院と対策を練って臨地実習を行っています。その対策は学生や教職員本人の体調管理のみならず、ご家族にもご協力を依頼するものとなりました。幸いまだPCR陽性者はいませんが、感染管理を専門とする教員が中心となり、誰が感染してもクラスターを起こさないように、環境や備品、ルールを強化し続けています。
今年度、周術期看護実習は、感染拡大の状況を鑑み、ひとつの病棟に行く学生数は変えず、一度に実習させていただく病棟数を半分とし、病棟にいる時間も12日から7日間に減少することとなりました。しかし、これまで通り学生がベッドサイドへ行って患者さんとお話しさせていただくこと、指導者とともに看護ケアすること、手術室に入って見学することを許可していただきました。病棟実習期間が短くなるため、手術室見学、術後一日目の全身観察や離床など、学生全員が見せていただきたい場面を絞り、それ以外の場面は学内実習とするために、インストラクショナルデザインを学びADDIEモデル
5)6)に近づけようと苦悩しました。
病棟実習を終えた学生は、生き生きと実習の様子を話してくれます。手術室のタイムアウトに参加して患者さんが受ける侵襲を学ばないといけないと感じたと話してくれる学生もいます。患者さんが頸の傷を鏡に映して何針縫ったか数える様子を見て、まだベッドサイドを離れないほうがいいと感じたと話してくれる学生もいます。誰とも面会できないからあなたがいてくれてよかったと言ってもらえたと話してくれる学生もいます。その一方で、聴診器を当てる強さを考えたら手が震えたと話してくれたことから、春にオンラインで行った技術演習の問題にも気付きました。
今回の実習を開始する約2か月前から、学生と個別にオンライン面談し、医療者と同様の感染予防行動をとること、体調を整えること、同居の家族と感染予防を話し合うこと等を進めてきました。感染予防には緊張が続きますが、病棟に行ってその場で判断して自分の手で患者さんにケアする実習は、強烈に学生の看護観に働きかけるのだと改めて学びました。感染拡大が続きそうな状況で、今後も柔軟な対応が求められます。変えるものと変えないものを病院や大学と常に相談して進めていかなくてはいけないと感じています。