天使女子短期大学専攻科衛生看護学専攻を修了後、保健師として勤務。天使大学大学院看護栄養学研究科看護学専攻、東北大学大学院医学系研究科保健学専攻修了(博士(看護学))。2012年より現職。
今年の新学期は、これまでと違う面持ちで訪れました。いつもは、新入生を迎えた活気と休暇を明けた学生たちの再会で賑わい、講義や実習への期待と緊張感を持って行き交う学生の様子に、私も身の引き締まる思いで迎えていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大という未曽有の事態に、新学期は一変しました。開講の延期が続行され、学生のいない静かなキャンパスでは、学生と教育を守るために日々更新される情報が行き交い、最善を探り繰り返される判断に、自分の教育観、看護観が問われていると感じます。
対面での講義の延期に伴い、オンラインによる遠隔での講義、演習、実習のための環境整備とプログラムの検討が、本学でも急務となりました。オンラインを主としたツールに変わっても、変わらない看護の本質をどのように伝えるか、これまでとの発想の転換や創意工夫が求められると感じています。改めて講義、演習、実習の目的、目標に立ち戻り、ディプロマポリシーやカリキュラムポリシーとの連動の中で、また、各機関が提示する看護学教育課程に関する基準等に照らし合わせて、伝える看護を洗練し授業設計する機会でもあると感じます。ツールが変わっても、私自身が伝える看護を見失うことがないよう、今一度立ち戻りながら進めていきたいと考えています。
そして、学生も体験しているこの感染症による健康危機から、ともに学び看護を探究していきたいと思います。今も最前線で命を守る医療従事者、暮らしを守る福祉関係者、公衆衛生の中核を担う保健所の専門職、人々の暮らしの傍で健康を守る保健関係者、働き地域を支える人々、その人々の家族、その一員としての自分…いかに人々に支えられ社会や制度に守られているのか、生活の変化から起きている健康課題は何か、地域社会の一員として健康と生活に関わる看護専門職となる立場から、この未知の感染症の実態と今起きている様々な倫理的課題をどのように考えるのか。この健康危機について、未来を支える看護専門職の学生とともに考え、学修を通して乗り越えていきたいと思います。
本学では、大学院に保健師教育課程を設置しています。2年間を通して、公衆衛生看護の理念に基づく倫理観をもって判断と行動ができる実践能力と、分析力、研究力、政策提言能力の獲得を目指し、院生はディスカッションを繰り返して学修を深めています。獲得する実践能力の一つとして、保健師には、地域の健康危機管理を行う能力が求められています1)2)。新型コロナウイルス感染症による健康危機では、介護保険サービスの休止に伴う高齢者の生活と健康への影響、外出自粛やテレワーク、休校により家庭で過ごす時間が長くなることに伴う児童虐待、休業や失業による深刻な生活への影響、健康格差の拡大等、あらゆる課題が起きています。つまり、平時の課題が表面化し複合的に現れ、生活と健康を脅かし、いのちを奪いかねない状況にあります。近年では自然災害の発生も後を絶たず、さらに重大な健康危機となる可能性も否めません。だからこそ、発生時の対応だけでなく、平時から健康危機管理体制を整え、発生後もその回復に対応することが能力としても明示され求められています。保健師の対象である、あらゆる健康レベルとライフサイクルにある地域の人々の生活と健康を社会的公正の基に護り、保健・医療・介護・福祉・教育といった多様な機関や住民とともに、平時から健康危機にも対応する地域ケアシステムの構築を、私も院生とともに探究し、健康危機管理能力の育成に教育の場から努めていきたいと思います。そして、一日も早い事態の終息と、人々の生活と健康の安寧を祈って、日々真摯に向き合っていきたいと思います。