真ん中の方が佐久間先生です
北里大学病院勤務、北里大学大学院看護学研究科修士課程修了後、現職。
昨今、医療の高度化、在院日数短縮化による医療環境の変化、実習以外の講義科目の増加など、実習指導の環境が大きく変化しています。急性期病院における臨地実習は入院期間が短いうえに、複数の基礎疾患をもちながら入院する患者が多いため、学生にとっては病態の理解が複雑となり、よりアセスメントが困難になることが推測されます1)。このような状況を踏まえ、私が日頃の実習指導で実践している工夫についてご紹介します。
私は主に、看護学部3,4年生に対して「慢性期看護学実習」、「急性期看護学実習」を担当しています。急性期病院における臨地実習では限られた期間内で看護過程を展開し、タイムリーに学生の実践や実習記録に対してフィードバッグを行ったり、学生の抱える困りごとや課題に対応することは容易ではありません。教員として今年で3年目になりますが、新人教員のときは「学生にいい実習をさせてあげなければならない」、「実習目標を達成させなければならない」、「学生より臨床的知識・技術をもっていなければならない」などというプレッシャーと戦い、がんじがらめになることがありました。また、学生の立場に寄り添っていたいと思う反面、実習ではその日のスケジュールに追われ、十分に時間をかけて学生に対応することができず、自分が掲げた理想に達成できていないと反省することもありました。しかし、実習を終えた学生の「実習中は眠れないほど不安でいっぱいだったが、教員が不安や悩みを聞いてくれたことが励みになった」、「自分が困っていてどうしようもないときに教員が耳を傾け、一緒に考えてくれたことが嬉しかった」などという声を聞き、この言葉から、私より臨床という未知の世界に飛び込もうとしている学生こそ、いちばん不安を抱えているということにハッと気づかされました。また、改めて、実習の主役である学生一人ひとりに目を向け、実習指導を通して教員も学生とともに看護を学ぼうとする姿勢が重要であることを痛感しました。
そして、そのために私が実習中に実践している工夫は、実習初期に担当の学生と面談を行い、学生の個別性を把握することです。面談は病棟実習初日に1人10~20分程度行い、「これまでの実習でよくできたこと」、「自己の課題」、「今回の実習目標」、「現在抱えている不安」などに関する話を聞きます。これは、学生がこれまでの実習を通して自分の長所・短所をどのように捉えているのか、また、どのような思いで実習に臨んでいるのか、今回の実習では何を頑張りたいと思っているのか、などということをきちんと理解した上で関わりたいと考えるからです。また、これは私が学生を知るだけではなく、実習中にSOSを発したいと困っている学生が、いつでも教員に声をかけてよいと感じられるようにするための関係性を構築したいという思いもあります。さらに、実習の早い段階で学生とコミュニケーションを図ることで、実習中に学生が持つ困りごとや問題を実習早期に察知でき、学生へタイムリーでより効果的な対応を検討できることもありました。
実習は、看護の専門職者として、また、社会人として成長するために重要な学びの場です。実際に学生自身が実習中に「困る経験を持つ」ことで、看護や自己理解がより深まることもあるはずです。私は、学生一人ひとりの不安や困りごとに目を向けつつも、困難な状況に置かれた学生のすべてに手を差し伸べることで、学生の学ぶチャンスを奪うことがないよう日頃から心がけています。教員と学生が伴走するように、そして、学生が一人で前に進めない時はその道しるべとなれるよう、明日からの実習指導に取り組んでいきたいです。