熊谷先生のゼミの学生が知的好奇心を持ち学習する様子
北里大学病院勤務、北里大学大学院看護学研究科修士課程修了後、現職。専門分野は周手術期看護学、患者安全。
文部科学省の学校基本調査によると、2018年度の大学進学率は過去最高の53.3%を記録しました1)。この結果は、多くの日本の若者に高等教育を受ける機会が与えられたこと示しています。一方で、アメリカの高等教育研究者であるマーチン・トロウは、「大学進学率が50%以上に達すると、大学はユニバーサル・アクセス化し、高等教育の機会が万人の義務となる」と提唱しています2)。いかなる時代を迎えても、大学では、与えられたことを義務的に学習するのではなく、知的好奇心の趣くまま主体的に学習する楽しさを感じ、生涯を通して自己研鑽する力を身につけてもらいたいと私は考えています。
誰もが子どものころは、あらゆることに夢中になり、「もっと知りたい」と心躍らせ、「自ら学ぶこと」「知ること」の楽しさを感じていました。学生も、「小さなきっかけ」さえがあれば、子どものころのように知的好奇心の趣くまま、自ら学ぶ楽しさを想起できると考えています。そこで今回は、学生の知的好奇心を刺激する「小さなきっかけづくり」のために、私が取り組んでいる活動についてご紹介します。
一つ目の活動は、学生達との「社会科見学ツアー」という課外活動です。毎回、学生の「見たい」「知りたい」という興味関心に合わせて行き先を決め、社会科見学へ出掛けます。
航空会社の見学では、目の前を離発着する大きな航空機の様子から、航空機が空を飛ぶ原理、安全運航のための管理体制について、体感的に学習しました。医療職と同様、命を預かる仕事に従事する航空会社職員の職業意識やその教育について、学習意欲を高めていました。
テレビ局の見学では、緊張感のある報道フロア、スタジオの照度や空調設定を体感することで、テレビ局職員の健康管理について、関心を高めていました。
こうして学生は、看護・医療とは異なる場においても、自分の専門性に基づく気づきによって、ものを捉える角度や視点が変わる面白さを感じています。
今後も、学生の興味関心のある場所で、五感を駆使した学習から生まれる自由な発想、専門性に基づくさらなる知的好奇心や学習意欲が高まる機会を大切にしたいと考えています。
二つ目の活動は、学生の研究に対する知的好奇心を刺激するための活動です。学生は教科書などの「道しるべ」を頼りに勉強する習慣があり、「新たな道しるべ」を創造する研究に対して消極的になることがあります。また、「より良い看護を提供するために、なぜ研究が必要なのか?」と、自らが研究する意味を見出せずにいることもあります。そこで、研究に対する学生の知的好奇心を刺激するきっかけづくりのため、学生と一緒に学会へ参加する活動をしています。学生は、学会への参加を通して、研究成果がどのように看護・医療に貢献しているかを実感し、自らが研究する意味を見出すことができるようです。また、学会では多様な研究発表が行われているため、自身の興味関心が絞られ、研究テーマが明確になる学生もいます。
今後も、学生が知的好奇心と夢を持って研究プロセスを遂行できるように、教員としてできることを考えていきます。