米国ハワイ州でのナース・プラクティショナー視察にて(2018年3月)
国立看護大学校看護学部看護学科卒、国立看護大学校研究課程部看護学研究科政策医療看護学専攻修了。国立循環器病センター、国立国際医療研究センター国府台病院(看護師)などを経て、現職。
今回は私が学部・大学院で担当しているフィジカルアセスメントの授業についてご紹介します。
私が学生だった頃、国内にフィジカルアセスメントを教えることができる看護教員がまだ少なかったらしく、米国より講師が招かれました。授業はすべて英語で行われ、さらに私は男性だったためか毎回患者役として先生のフィジカルイグザミネーションを一身に受けました。それが影響したのかわかりませんが、唯一私だけ実技試験で不合格、再試験となったのを記憶しています。
現在は、2017年に文部科学省より出された看護学教育モデル・コア・カリキュラム1)において、フィジカルアセスメントが看護実践に共通する看護基本技術として学修目標の一つとされ、臨床においても重要な技術とされています2)。
看護学部で担当する呼吸器系フィジカルアセスメントの演習は、1年生の後期に行います。演習にはチーム基盤型学修法(TBL;Team
Based
Learning)を取り入れ、「予習」「確認」「応用」の3段階で進めます。
まず「予習」では、演習に先立ち行う講義の復習、事前課題を課して、学生は個別学修して演習に臨みます。次に「確認」として演習におけるフィジカルイグザミネーションの実施に必要な知識(肺の構造、位置、ランドマーク、正常呼吸音など)の確認のため多肢選択形式の個人テスト(IRAT;Individual
Readiness Assurance Test)を行います。さらに、個人テストと同じ問題内容のグループテスト(GRAT;Group Readiness Assurance
Test)を行い、個別学修してきた内容を「応用」し、グループとして合議により解答を導き出します。また、GRATは学生が楽しみつつ主体性を持って参加できるよう答案用紙をスクラッチ式とし、1個目で5点、2個目で3点…というように正答するまでにめくったスクラッチの数で配点が決まります。グループ内でのディスカッションは、学生間の協調性を高め、「予習」で得た知識の活用を促し、個人やグループでの学修が不完全な部分を明確にします。終了後、教員がテストを回収・採点します。IRAT・GRATの正答率をもとに、個人、グループに不足していた点を認識させ、回答に対するフォローや正解の根拠を説明することで、知識の定着を図ります。そして、グループの学生同士で肺の位置の同定や、正常呼吸音の聴き分けのフィジカルイグザミネーションを実践してもらい、知識のさらなる「応用」を促します。学生からは演習後に「楽しく学ぶことができました」「スムーズに知識を実践に結びつけられたと思います」といった感想や、臨地実習後には「受け持ち患者さんの呼吸音の性状や聴取する部位での違いを聴き分けることができました」という声もありました。
大学院の授業では、グループで学修した内容をプレゼンテーションや、デモンストレーションを通して他のグループに教授する形式にしています。長く臨床で働かれていても触診や打診を積極的に実施したり、看護学生や後輩看護師に指導したりしてこなかった方がほとんどです3)。そのため、プレゼンテーションを準備する中でこれまでの実践を振り返り、自分たちの知識・技術の限界を認識する良い機会となっています。
演習では、高機能生体シミュレータ等を用い症例を設定し、フィジカルイグザミネーションにとどまらず、得られた所見から考えうる患者の身体状況と実施すべき看護についてディスカッションしています。あふれんばかりの向上心・向学心をもった大学院生と一緒に授業を作っていくなかで、私自身多くの学びを得ています。
今後は、これまでのフィジカルアセスメントの教育方法を評価し、さらに究めていければと考えています。そして、打診・触診を用いた積極的なフィジカルアセスメント技術を活用し、より良い看護実践に繋げることのできる看護師の育成に貢献したいと思います。