左から4番目の白いワンピースの方が倉岡先生です
日本赤十字看護大学卒業後、日本赤十字社医療センターに看護師として勤務。その後、聖路加看護大学大学院看護学研究科博士前期課程に進学し修了。修了後、さいたま市立病院看護師長、聖路加看護大学(2014年より聖路加国際大学に改称)大学院看護学研究科看護の機能領域(看護管理学)助教を経て現職。2017年に看護学博士号取得(聖路加国際大学)。
今回は、私が担当している授業でどのような工夫をしているかについて紹介します。私は、学部3年生を対象に「看護管理学」を教えています。この科目を教える時に、私は、看護管理学の理論と学生の経験を結び付けることに特に力を入れています1)。
基礎教育において、看護管理学を学習する前の学生の反応は、「管理なんて遠い世界で興味が持てない」「看護管理は管理者のためにあるように思える。看護学生の自分には関係がない気がする」というものが大半です。私は、このような学生たちの学ぶ意欲をどのように高め、看護管理学に興味を持たせるか、試行錯誤をしてきました。
私は、学生に看護管理学の理論を他人事ではなく自分事として捉えてもらうためには、看護管理学の理論と学生の経験を結び付ける仕掛けが重要だと考えるようになりました。例えば、リーダーシップ理論の1つであるPM理論を取り上げる回では、企業等の従業員を対象とした上司のリーダーシップ行動をたずねる質問紙2)を用いて、学生に回答させます。学生には、アルバイト先の上司やサークル活動の部長など印象深いリーダーを一人挙げてもらい、フォロワーの立場で回答してもらいます。質問紙の得点から、数人の学生の上司のリーダーシップ行動を分析していくことで、学生は、PM理論を身近なものとして考えることができます。次に、私の研究結果3)等から、看護師長のリーダーシップ行動を説明することで、リーダーシップ理論を看護に引き寄せて考えることができるよう導きます。
また、医療の質保証の回では、医療の質の評価の視点である「構造」「過程」「結果」4)を説明した後に、「皆さんが受けている大学教育の質を構造、過程、結果の視点で考えるとどのような事項が挙げられるだろうか?改善すべき事項は何か?」と投げかけ、隣同士で議論する時間を設定します。自分事となったとたん、学生の議論は盛り上がります。
そして、科目の最終回では、学生によるプレゼンテーション「自分の経験を看護管理学で学んだ理論と結びつけて考えよう」を実施します。プレゼンをする学生3~4組を立候補制で募り、スライドを作成してもらいます。プレゼンテーションでは、学生は、まず、アルバイトやサークルなどでの自分の活動や組織図、または、実習中の経験などを説明します。次に、看護管理学で学んだ理論を駆使して、自分や上司の活動を分析し、場合によっては組織の中の問題点を指摘し改善案を提示します。最終回のプレゼンテーションは、準備して発表する学生はもちろんのこと、同級生の発表を聴く学生にとっても充実した学びを得られます。学生は、感想として、「同級生による身近な事例の発表は、興味がわき、分かりやすかった」や「授業で学習した理論の復習になり、より深く理解できた」などと記していました。さらに、科目全体の感想として、「看護管理は看護の土台となることがわかった」と記している学生もいました。
今後も、学生の経験を引き出し、看護管理学の理論と結びつけることで、学生が自分事として納得して興味を持てるよう授業を工夫していきたいと思います。