新潟大学医学部保健学科看護学専攻卒。助産師として大学病院へ勤務後、大学院へ進学し、聖路加国際大学大学院博士後期課程修了後、現職。専門分野は助産学、母性看護学。
今回は、私が取り組んでいる研究活動についてご紹介させていただきます。
私はこれまで妊娠中の会陰マッサージに関する研究に取り組んできました。
出産に伴う会陰損傷は妊娠した女性の多くの心配事です。私が助産師として臨床で働いている時も多くの妊婦がバースプランに「できれば会陰切開をしないでほしい」と記載していたり、出産時の会陰損傷による痛みによって産後の入院生活に支障をきたしており、中には痛みがあまりにひどく、歩行器を使用している方もいらっしゃいました。妊娠中の会陰マッサージとは、そのような出産時の会陰損傷を予防するために妊婦自身が取り組むセルフケアの一つです。妊娠34週以降に週2回程度、オイルをつけた指を膣内に3~4㎝挿入し、会陰部を5~10分マッサージします。
妊娠中の会陰マッサージに関する有効性については、初産婦において会陰切開の発生率や縫合を必要とする会陰損傷の低減がシステマティックレビューにより報告されています1)。しかし、私たちが取り組んだ日本人妊婦425名を対象とした実態調査では、会陰マッサージを実施した妊婦は15.1%と低く、会陰マッサージを実施しても途中で中断してしまう妊婦も多い現状や、実施を阻害する因子として、会陰部に触れることに対する抵抗感や知識不足、実施中の困難感などが確認されました2)。会陰部は普段触ることがないため、マッサージの開始直後は痛みを伴いますが、継続することで会陰組織の柔軟性が高まり、痛みが軽減していきます。同研究2)では、会陰マッサージを継続した女性は途中で中断した女性に比べて、出産準備への効果や出産時の効果を感じていたことも確認されたことから、私たち医療者は、会陰マッサージの方法に関する情報提供だけでなく、実施を継続できるような支援をしていくことが重要であるといえます。また会陰マッサージを実施した妊婦の感想として、「自分の体を知ることができたのはよかった」、「ここから赤ちゃんが出てくるのかと思い、徐々に出産が楽しみになった」などの肯定的な声もあり、会陰マッサージの実施が自分の身体と向き合うことにつながり、出産に対する主体性を高めるきっかけになるのではないかと考えています。
日本の合計特殊出生率は2017年で1.43であり3)、一人の女性にとっての妊娠・出産は大きなライフイベントといえます。そのような何度も経験することがない妊娠・出産が、女性にとってより豊かな体験となるよう、女性の「産む力」を支えられる活動をこれからも少しずつ積み上げていけたらと思っています。