東京大学医学部健康科学・看護学科卒、東京大学社会科学研究所特任研究員、岩手医科大学医学部助教等を経て、現職。専門分野は健康社会学、健康教育学。
今回は私が学生の頃から関わっている活動である「慢性疾患セルフマネジメントプログラム」についてご紹介しようと思います。
医療の進歩や高齢化の進展、生活習慣の変化に伴って、何らかの病気や障がいを持ちながら暮らしている人は増加してきています。こうした病気や障がいは病院で治療すれば完全に治るというものは少なく、病気や障がいを持つ人自身が食事に気をつかったり、薬を飲んだり、定期的に通院したりしながら日常生活を送らなければならない慢性疾患が多くなっています。特に病気や障がいがなくても、仕事や家事などをするだけで大変なこともあるのに、そこに自分の病気や障がいの管理も加わるというのは大変なことです。
病気や障がいを持ちながら充実した生活を送ることができるような技術や資源を得ることを支援するプログラムが「慢性疾患セルフマネジメントプログラム」です。このプログラムでは慢性疾患や障がいを持つ人が集まり、病気や障がいを持ちながら生活していく上で役に立つ技術を学んでいきます。プログラムの進行も訓練を受けた患者自身が行うというのが大きな特徴の一つで、医師や看護師などの医療専門職から病気や障がいの管理について教わる患者指導とは異なります。
プログラムは毎週1回で6週間ありますが、毎週行う活動がアクションプランを立ててそれができたかどうかを参加者の前で発表するというものです。アクションプランというのは次の1週間で「やりたいこと」を具体的に決めて実行するというものです。ここでポイントとなるのが「やりたいこと」を決めるということです。何か目標を立てるとなると「やりたいこと」よりも「やらなければいけないこと」を目標にしがちですがそうではありません。実際、多くの参加者の方が「やりたいこと」を決めると言われて、驚いたり戸惑ったりするようで、私も最初に参加した時は「やりたいこと」でいいの?と思ったものでした。これは、健康は目的ではなく資源であって、健康の管理は自分のやりたいことをするためにするものだという考え方に基づくものです。病気や障がいを持ちながら生活をしていると病気の管理そのものが目的になってくることもあります。また、医療専門職は病気を治すことや健康を管理することが仕事なので、健康そのものが目的となりがちです。私にとってアクションプランやこのプログラムは健康が何のためにあるのか、何のために健康を守るのかということを考えさせてくれるよいきっかけになりました。参加者の方も同じように感じる方が多いようで、プログラムに参加したことで前向きに健康管理に取り組み、健康状態が改善したり、より充実した生活を送れるようになったりといった変化が確認されています1-2)。
今後もこうした活動や研究を通して人々の健康や幸福に役立つことをしていきたいと思っています。
今回紹介したプログラムの詳細はNPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会のウェブページに掲載されています。
https://www.j-cdsm.org/